必須脂肪酸 GLA & EPA

必須脂肪酸のGLA(γガンマ-リノレン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)の情報集約サイト

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γ-リノレン酸(ムコール抽出)投与前後の維持血液透析患者における皮膚水分量の変化

      2016/02/26

飯島 茂子  大塚 藤男  菊池  博
山田 恵子  八尋 賢一  山本 正男

はじめに


 γ‐リノレン酸は,炭素数18,不飽和結合数3のn-6系に属する不飽和必須脂肪酸の一つである。代謝マップ上では,リノール酸からジホモγ‐リノレン酸に代謝される過程で生じ,タイプ1プロスタグランジンの産生に関与する。一方,ジホモγ‐リノレン酸から作られるアラキドン酸は,タイプ2プロスタグランジンの産生に,n-3系脂肪酸に属するα‐リノレン酸やエイコサペンタエン酸は,タイプ3プロスタグランジンの産生に関与する。
 近年,このγ‐リノレン酸が,透析患者における種々の病態,特に頑固な痒みに有効であるという報告が散見されてきている。しかし,リノール酸やα‐リノレン酸が大豆油や菜種油,アラキドン酸が肉や卵,エイコサペンタエン酸が魚からの日常の食事から容易に摂取されるのに対して,γ‐リノレン酸は.母乳および一部の植物からしか得ることができない。そこで筆者らは,ブドウ糖を主原料とし,糸状菌ムコール属による発酵方式で得られたγ‐リノレン酸含有油脂を使用した。γ‐リノレン酸を含有する従来の植物種子由来の油脂(月見草油,ボレージ油,黒スグリ油)と,糸状菌ムコール属由来の油脂を比較すると,前者はγ‐リノレン酸の含有量が低く(3~26%),リノール酸のそれが高い(47~72%)のに対して,後者では,γ-リノレン酸が高く(25~31%),リノール酸が少ない(14%)という特徴を持っている。事実,γ‐リノレン酸含有油脂を用いた透析患者の痒みに対する報告例をみると,ほとんどがムコール属由来の油脂を用いている。
 筆者らも,昨年の本シンポジウムにおいて,ムコール属由来のγ‐リノレン酸が痒みのある透析患者7例全例に有効であることを報告した。そして,その作用機序を次のように考えた。つまり,γ‐リノレン酸を内服すると,γ‐リノレン酸は細胞膜に取り込まれて膜の脂肪酸組成を変化させる。この結果,好中球,赤血球に対しては流動性の改善をもたらす一方,好塩基球に対してはヒスタミン遊離能の低下となって,痒みを改善させるのではないか,というものである。また,筆者らは,膜の脂肪酸組成の変化は表皮細胞膜にも影響を与え,さらに細胞間脂質にも変化を及ぼすと仮定した。その結果,角質水分量の増加,水分保持機能の改善により,痒みが改善するのではないか,と推測した。実際に透析患者では,皮膚が著明に乾燥していることが知られている。

目的


 透析患者におけるγ‐リノレン酸の痒み低下機構に,皮膚水分量の変化が関与するかを検討する。

対象


 痒みのある維持血液透析患者13名(男11,女2)で,年齢は34~72歳(52.0±12.2歳),透析歴は9カ月~14年(7.1±4.3年)である。

方法


 投与期間は,96年12月から98年2月までの14カ月で,γ‐リノレン酸として1日300mgを内服投与した。
 痒みの推移は,内服前のを10として,アンケート法により,内服前,1,2,3,14カ月後の痒みの程度を10段階評価した。
 皮膚水分量の測定は,対象患者4名について,モイスチヤー・チェッカー(スカラ〔株〕)を用いて,内服前,2,4,12,14カ月後に,両上腕内側,両腓腹部の4カ所の皮膚水分量を測定した。なお,1カ所での測定は各々2回ずつ行い,その平均値をその部位での測定値とした。
 さらに,30倍に拡大できるビデオルーペ(VL-7A type11,スカラ〔株〕)を用いて,内服前,2,12,14カ月後に,両上腕内側,両腓腹部の4カ所の皮層を観察し,同時に写真撮影も行った。

結果


 図1に痒みの推移を示す。内服前の痒みの程度を10として,1カ月後には7.83.2カ月後には6.54,3カ月後には4.92と低下し,14カ月後もほぼ同レベルと痒みは半減した。
 対象患者1名での皮膚水分量の経時的変化をみると,冬は乾燥し,夏は湿潤するという天候に左右される傾向を強く示したので,内服1年後の12月どうしと2月どうしを比較することにした。
 図2に対象患者4名,各4カ所の,12月の皮膚水分量の変化を示す。ほとんどの症例,部位で,水分量は上昇し,Wilcoxon検定で0.01の有意差を認めた。
 図3に2月の皮庸水分量の変化を示す。低下している症例もあり,有意差は0.05であるが,特に乾燥傾向の強い症例,および部位で,著明に上昇した。
 図4に対象患者1名での皮膚表面の状態を示す。内服前は,皮溝・皮丘で囲まれた皮野が不明瞭で,角質の粗造化が著明であるが,1年後には皮野が細かくなり落屑も減少した。
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まとめ


 1)痒みのある血液透析患者13例に,γ‐リノレン酸300mg/日を14カ月投与したところ,痒みの程度は半減した。
 2)そのうち4例について,各々両上腕内側,両腓腹部の4カ所の皮腐水分量を,モイスチャー・チェッカーを用いて測定した。投与開始前(‘96.12)とその1年後(‘97.12)の間にはp<0.01.投与開始2カ月後(’97.2)とその1年後('98.2)の間にはp<0.05の有意差で,皮間水分量が増加した。  3)ビデオルーペを用いて,投与前後の皮膚を観察したところ,投与後には皮膚の乾燥状態は明らかに改善した。

結語


 透析患者におけるγ‐リノレン酸の痒み低下機構の1つに,皮膚水分量の改善が関与することが示唆された。

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