必須脂肪酸 GLA & EPA

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透析患者の瘙痒症に対するγ-リノレン酸の有効性

      2016/03/08

森  功
岩井哲郎
森 睦子
山田恵子
川岸史和

はじめに


 透析患者の瘙痒症は80%以上ともいわれ[1],高頻度にみられる重要な合併症にもかかわらず,未だ有効な治療が確立されていないのが現状である。
 今回,アトピー性皮膚炎(以下ADと略す)患者に対して有効とされているγ-リノレン酸(以下GLAと略す)が透析患者の瘙痒症に対しても有効ではないかと考え,GLAの投与を試み,興味ある結果を得たのでここに報告する。

試験方法


 1)被験製剤:発酵法により得られたGLA含有油脂(以下バイオGLA含有油脂と略す。出光マテリアル株式会社)に天然ビタミンEを添加した軟カプセル(商品名イッチノン)を使用した。1カプセル中にはGLA50mg,ビタミンE45mgなどが含まれている。
 2)対象:痒みを訴える透析患者5名を対象とした。
 3)方法:被験製剤を朝食後に4カプセル,夕食後に3カプセル,すなわち1日量として7カプセル(GLA量350mg)を3カ月間投与した。臨床所見の記録は,毎日透析実施日に,瘙痒,紅斑,丘疹,浸潤,掻爬痕,苔醇化の6項目について行った.瘙痒の程度は白取の分類(表1)[2]に準じて5段階に分け,効果判定はアンケート方式による患者自身の自覚症状によるものとした。その他の5項目については医師により効果判定を行った。なお,被験製剤投与前,および投与終了時に血液一般検査,血液生化学検査,そしてIgEと亜鉛さらに全脂質脂肪酸分画などの測定を行った。
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結果


 1)患者背景:患者5名の年齢,性,透析歴,ダイアライザーの種類などを表2に示した。
 2)治療成績:を訴える5例の透析患者に被験
製剤を投与した結果,5例とも津みが改善され有効率
100%であった(表3)。瘙痒に対する効果は早い人では投与開始1週目より現れ,投与2週目ではその効果はより明らかであった。また瘙痒感の減少とともに皮膚の乾燥傾向の改善も認められた。なお,患者の協力が得られず,投与6週目で脱落した症例Bを除き,すべて3カ月間の投与を実施しえたが,副作用は全症例において認められなかった。
 なお,5名の患者のうち2名において,投与中止後に瘙痒症の再発を認めた。再発をした症例はDとEで,再発時期は症例Dが投与中止後18週目,症例Eが中止後9週目で,両症例とも被験製剤を再投与することにより,瘙痒感は再び改善した。

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 3)臨床検査成績:被験製剤投与開始前および終了時の臨床検査成績からは,とくに異常値を認めなかった(表4)。ただし,Ca,P,BUNなどについては若干の変動を認めたが,臨床上有意の方向性をみつけることはできなかった。
 また脂肪酸分析から,われわれは興味ある結果を得た(表5)。GLA+dihomo-y-linolenic acid(以下DGLAと略す)が低値の症例に対しては,被験製剤投与によりその値が増加し,またGLA+DGLA/linolenic acid(以下LAと略す),GLA+DGLA/arachidonic acid(以下AAと略す)比,GLA/DGLA+eicosapentaenoic acid(以下EPAと略す)+docosahexaenoic acid(以下DHAと略す)/AA比に対しても同様に増加傾向を示した。さらにEPA+DHA/α-linolenicacid比に対しても同様の傾向を示した。

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考察


 透析患者の皮膚瘙痒症の原因としては,大きく分けてアレルギーに関するもの,副甲状腺ホルモンやビタミンD3を含めたカルシウム代謝に関するもの,皮膚の萎縮や乾燥,発汗異常など皮膚細胞そのものの異常に関するもの,代謝産物の体内蓄積あるいは透析による喪失に関するものなどが挙げられているが,未だに十分な解明はされておらず,また治療も試みられているものの,どれも十分な効果は得られていない[3]。そこで今回,瘙痒感を訴える透析患者に,ADに対して有効とされているGLAを含む被験製剤を投与したところ,瘙痒症の著明な改善を認め,また瘙痒感の改善に伴って掻爬痕,苔蘇化などの皮膚状態も改善された。
 また投与期間中,副作用は全例において認められず,検査値の変動についても,食事の影響を受けやすい一部の検査項目において,若干の変動を認めたのみで,臨床上特に問題はないと判断した。一方,脂肪酸分析においては参考となるべき基準値に対するデータが乏しい現状において,われわれは島崎弘幸(帝京大)の報告[4]を参考として分析を試みた。その結果,GLAの投与により,臨床症状の改善とともに,各種脂肪酸比のパランスが正常化する傾向を認めた。しかし,瘙痒感のない透析患者については検討しておらず,脂肪酸組成の変動が瘙痒感を訴える透析患者に特有のものか,透析患者一般に共通のものかは今のところ不明である。しかし今回の検討において,われわれはGLA投与による脂肪酸組成の変動と瘙痒の改善との間に,何らかの相関がある可能性をみいだした。
 GLAはprostaglandin(以下PGと略す)の前駆物質として重要な脂肪酸の一種で,通常は,植物性油脂などに含まれるLAから,人の体内でδ6 desaturaseという酵素によって代謝されて,GLAが生成される。しかし種々の要因によってδ6 desaturaseの活性が阻害されると,LAからGLAへスムーズに変換されなくなることがあり,たとえば,一般的に透析患者において低値といわれる亜鉛もその要因の一つとされ,また透析患者の亜鉛とヒスタミンは負の相関があるという興味深い報告[6]もある。そこで,われわれは亜鉛と脂肪酸組成の変動と,瘙痒との間に,何らかの相関があるのではないかと思い分析を行ったが,今回は症例数も少ないためか,有意の相関はみいだせなかった。一方,Mankuらは,AD患者においてもδ6 desaturase活性の低下が示唆される報告をしている[7]。したがってδ6 desaturaseの活性が低い人はGLAを体外から直接補給する必要があるにもかかわらず,自然界では母乳やごく一部の植物(月見草など)にしか含まれていないため,通常の食品からの摂取は非常に困難とされている。そこで外部からGLAを補給する目的で月見草油,あるいはバイオGLA含有油脂の投与は有効であると考えられ,事実,国内外において月見草油のAD患者に対する有効性が多数報告されている[8]~[10]。バイオGLA含有油脂は,月見草油と比較してGLA含域が多く,LA含飲が少ないなどの特徴をもつ(表6)[11]。
 GLAと免疫との関係についてMillerらは,GLAの代謝物である15-hydroxy-eicosatrienoic acidが5-および12-lipoxygenaseを阻害してleukotrieneの生成を抑制することを[12],またBourneらは,PGE1,がadenylatecyclaseを賦活することによりc-AMPの活性を高め,その結果histamineの放出を抑制することを[13]さらにMelnikらは,PGE,がTリンパ球に作用して,増加したIgEを減少させることを報告している[14]。
 このようにGLAおよびその代謝物のPGE,などには,免疫調節作用をはじめとして多岐にわたってさまざまな作用が認められていて,英国ではすでに月見草油(GLA8%含有)を成分とする医薬品が,AD治療薬として認可されている。またわが国においてもGLAは,「ADの臨床症状の緩和」ならびに「血清コレステロール値の低減」の保健用途食品の素材として.1992年8月に認可されている。
 また,被験製剤に含まれるビタミンEに関しては,透析患者の動脈硬化の進展の予防に寄与するという報告がみられ[15]透析患者にとって有用性が期待できる成分と考えられる。

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結語


 ADに対するGLAの有効性については多数の報告が認められるが,一方,透析患者の瘙痒症に対しては,過去にGLAの投与が試みられた報告もなく,また透析瘙痒症の原因についても,未だ十分に解明されていないのが実状である。われわれの検討においても,透析瘙痒症に対するGLAの有効性が,抗アレルギー作用に基づくものか,あるいは脂質代謝に対する作用を基づくものか,その作用機序を明確にすることはできなかった。また二重盲検法を実施していないため,placebo効果を完全に否定することはできず,GLAの有効性のより客観的な評価については今後の検討課題とする。しかし,被験製剤投与中止後に瘙痒の再燃を認めたことなどは,客観的評価の一つの指標と判断できうる。また実際に,透析施行中の皮膚掻捧症患者に対し,3カ月間,被験製剤を投与した結果,全症例において瘙痒の軽減を認めたことは,少なくとも透析患者にとって朗報といえよう。今後,さらに症例数を増やし,脂肪酸パラメーターと瘙痒メカニズムとの関係を中心に検討を加えていきたい。

(稿を終えるに臨み,情報の提供など多大なるご助力をいただきました,出光マテリアル株式会社の天野和俊氏,八尋賢一氏,後藤浩樹氏に深く感謝致します。)

文献


[1]服部 瑛: 透析患者と皮膚病変. 皮膚病診療12: 1017-1024. 1990
[2]オキサトミド臨床研究班: 皮膚そう津症に対するオキサトミドの臨床的検討―多施設二重盲検試験-. 西日本皮膚45: 1042-1051, 1983
[3]横田 武彦, 三宅範明: 透析患者の皮膚瘙痒症に対するOxatomideの治療効果. 腎と透析 26: 267-271, 1989
[4]Shimasaki H, Ueta N, Shino T: Essential fatty acid levels in plasma and red blood cells of Japanese with atopic eczema. In “Proceeding of the AOCS short course on polyunsaturated fatty acids and eicosanoids “ed Lands WEM, pp450-452, American Oil Chemists’ Society, Champaign Illinois, 1987
[5]Graham J: Essential fatty acids. Evening primrose oil. ed Graham J, pp24-30, Thorsons Publishers Inc., NewYork, 1984
[6]真田俊吾,久世益治,吉田修: 慢性透析患者の皮膚瘙痒症に対する硫酸亜鉛の止痒効果-特に血清ヒスタミン濃度の変動からみて-.泌尿紀要33: 1955-1960.1987
[7]Manku MS. Horrobin DF, Morse NL, et al: Essential fatty acids in the plasma phospholipids of patients with atopic eczema. Br J Dermatol 110: 643-648,1984
[8]須貝哲郎: マツヨイグサ油内服によるアトピー性皮膚炎の治験. 皮膚29: 330-338, 1987
[9]Karrila MS, Mattila L, Jansen CT, et al: Evening primrose oil in the treatment of atopic eczema: effect on clinical status, plasma phospholipid fatty acids and circulating blood prostaglandins. Br J
Dermatol 117: 11-19, 1987
[10]Morse PF, Horrobin DF, Manku MS, et al: Meta-analysis of placebo-controlled studies of the efficacy of Epogam in the treatment of atopic eczeme. Relationship between plasma essential fatty acid changes and clinical response. Br J Dermatol 121: 75-90, 1989
[11]出光マテリアル㈱社内資料
[12]Miller CC, Mc Creedy CA, Jones AD, et al: Oxidative metabolism of dihomogammalinolenic acid by guinea pig epidermis: evidence of generation of anti-inflammatory products. Prostaglandins 35: 917-938, 1988
[13]Bourne HR, Lichtenstein LM, Melmon KL: Pharmacologic control of allergic histamine release in vitro: evidence for an inhibitory role of 3′, 5′-adenosine monophosphate in human leukocytes. J Immunol 108: 695-705. 1972
[14]Melnik BC, Plewig G: Is the origin of atopy linked to deficient conversion of ω-6-fatty acids to prostaglandin E1?. J Am Acad Dermatol 21: 557-563,1989
[15]園部美弥彦, 湯川進, 西川治, 他: ビタミンE 投与による透析患者の動脈硬化症の進展予防.透析会誌23: 1281-1285, 1990

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