必須脂肪酸 GLA & EPA

必須脂肪酸のGLA(γガンマ-リノレン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)の情報集約サイト

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透析のかゆみに対するγ-リノレン酸内服療法

      2016/02/22

水戸済生会総合病院
飯島茂子

はじめに


 血液透析患者の痒みには尿毒性物質の存在,Ca-Pバランス不良,副甲状腺機能亢進,各種薬剤の影響,透析膜の種類,各種疾患の合併,皮膚の乾燥などが考えられているが,いまだ全容が解明されるには至っていない.しかし,誰者は,その背景に透析患者の皮膚の乾燥や脂質代謝異常が関与しているものと考えている.
 一方,γ-リノレン酸(以下GLAと略す)は炭素数18,不飽和結合数3のn-6系多価不飽和脂肪酸の一種である.本来,GLAはリノール酸がジホモγ-リノレン酸(以下DGLAと略す)に代謝される過程に生じるもので,タイプlプロスタグランディン(以下PGと略す)の生成に関与する(図1).DGLAはさらにアラキドン酸に代謝されてタイプ2のPGなどを産生するが,この反応はヒトでは緩徐で,この点においてはマウスやラットとは異なることが報告されている[1].一方,α-リノレン酸はn-3系の脂肪酸に属し,エイコサペンタエン酸に代謝されて,タイプ3のPG生成に関与する.リノール酸,アラキドン酸,α-リノレン酸,エイコサペンタエン酸などの多価不飽和脂肪酸は,通常の油,肉,魚などから容易に摂取されるのに対して,GLAは母乳,および月見草などの一部の植物種子に含有されているのみで,通常の食事から摂取することは困難である.
 このGLAを痒みのある透析患者に投与した報告が1994年以降散見され,初めての投与試験である森らの報告[2]によると,5症例に12週投与した結果,その有効率が100%と,全例に痒みの軽減がみられた.その後のいくつかの報告でも,8週から12週間の投与で50%以上の有効率が示されている.GLAの由来は植物の種子,あるいは微生物発酵油が知られているが,今回筆者が使用したGLAは後者のもので,糸状菌ムコール属の発酵によって得られたものである[3].これは前者の月見草,ルリチシャ,黒スグリの種子から得られたものと異なり,GLAの含型が多いという利点の他に,リノール酸の含有量が少ないという特徴もある[4].
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目的


 今回,筆者は透析患者の津みの原因に脂質代謝異常が関与していると考え,多価不飽和必須脂肪酸の一つであるGLAの投与を試み,その有効性を検討した.

対象


 対象は痒みのある維持血液透析患者13例で男11例,女2例,年齢は34~72歳(平均52.0±12.2歳),透析歴は9カ月~14年(平均7.1±4.3年)であった.

方法1


 投与開始は1996年12月から,投与期間は3ヵ月である.そのうち5例の希望者には14ヵ月内服してもらった(1998年2月まで).試験製剤は,1カプセル中GLAを50mg含有する軟カプセル(ムコール抽出,イッチノン®,(株)コーワテクノサーチ製造販売)で,投与量はGLAとして1日300mgを2~3回に分けて食後服用させた.痒みの推移は内服前の津みのレベルを10として,アンケート法により内服前,内服後1,2,3,14ヵ月時点で痒みの程度を,10段階評価で行った.さらに,津みに対する評価の方法として,6例については夜間痒みで起きる回数についても調べた.また,4例については皮膚の水分量と皮膚表層の写真撮影を行った.水分量はモイスチャーチェッカー(スカラ社㈱)を用いて経時的に両上腕内側,両腓腹部の4カ所を測定した.写真撮影については30倍拡大が可能なビ
デオルーペVL-7AtypeⅡ(スカラ社㈱)を用いて水分量測定と同部位を撮影した.
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結果1


 痒みの推移については,内服前のレベルを10とすると,投与3ヵ月後では4.92±3.07と,痒みはほぼ半減した(図2).しかし,その評価は内服後の痒みの程度が1あるいは2のレベルまで著減した4例から,全く変化がみられなかったレベル10(1例)まで種々であった.長期内服を希望した5例についての14カ月後の評価は,3ヵ月でのレベルとほとんど変わらず5.50±2.06であった.痒みのレベルが10の症例は14ヵ月の内服でも全く改善はみられなかった.夜間痒みで起きる回数については,一晩で7回痒みで目覚めた症例が,内服により朝まで熟唾できたという著効例が1例存在した.一方では,8週~12週にかけて痒みで起きる回数が1回から3回に増加した例があったものの,全体的には投与前と比べて減少した(図3).
 皮膚水分量は季節変動による外気の温度・湿度の影響を考慮する必要があると考え,対象患者1例について,経時的に皮膚水分量をプロットしたところ,12月から2月にかけて水分型が低下することが明らかになった(図4).したがって服用前の1996年12月と服用1年後の1997年12月,さらに服用後2ヵ月目の1997年2月とその1年後の1998年2月との水分量を比較した.
 なお,非対象患者として,投与していない透析患者を対象患者と同様に水分量を測定したが,乾燥の程度は両者において大差はなかった.
 1996年と1997年の12月,1997年と1998年の2月のいずれの比較においても有意に皮膚水分量が増加した(各々p<0.01,p<0.05)(図5a,b).12月の測定では4例の被検部位4カ所,全16カ所のうち14ヵ所で皮膚水分量が増加し,2月の測定では11カ所で増加した.また,図5で明らかなように,特に水分量が低値な例ほど改善効果は良い傾向がみられた.  内服前と内服1年後の30倍拡大皮膚写真では,投与により皮野形成が著明となり,落屑も減少し,皮間の乾燥状態は明らかに軽減した(図6). dialysis-itch-gla-05
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方法2


 上記の結果は,GLAの投与により細胞膜リン脂質の組成を変化させ,その結果,細胞内メディエーターの産生や放出に影響を与えた可能性があると考えた.そこで細胞膜リン脂質の変化をみる目的で,血漿および好中球膜のリン脂質中の脂肪酸分析を行った.方法の詳細は他論文[5]に譲るが,簡単には,血漿あるいは好中球に0.1%Butylated hydroxytoluene加 Folch液と希硫酸を用いて脂質層を抽出した後,薄層クロマトグラフィおよびガスクロマトグラフィによってリン脂質中の脂肪酸分析を行った.

結果2


 血漿中の内服前後のリン脂質中の脂肪酸濃度の推移は,GLAとDGLAについては,内服前が各々0.10±0.02%,1.77±0.56%,内服4ヵ月後が各々0.15±0.04%,2.36±0.35%と増加し,統計学的にもGLAはp<0.05,DGLAはp<0.01(Wilcoxon test)と有意差を認めた.一方,アラキドン酸については内服前7.88±1.46%,内服後7.86±1.73%と増加を認めなかった.同様に好中球膜についての内服前後でのリン脂質中の脂肪酸濃度の推移は,GLAについては0.21±0.05%から1.09±1.18%,DGLAでは1.47±0.42%から1.53±0.41%と増加傾向,アラキドン酸では6.11±1.65%から4.92±2.14%と減少傾向を示したものの,いずれの脂肪酸濃度も統計学的に有意な変化ではなかった.一方,GLA+DGLA/アラキドン酸の比で内服前後を比較すると,血擬中,好中球膜中のいずれにおいても有意な増加を認めた(各々p<0.01,p<0.05).

方法3


 上記の結果,細胞内サイクリックAMPの増加を介してヒスタミン等のmediatorの放出が抑制されているのではないかと考え,ヒスタミン遊離率について検討した.
 方法は安枝[6]の文献に基づき一部修正したものである.簡単には,対象患者4例から内服前,内服16週後にEDTA加血液12mlを採取し,6%デキストラン溶液6mlを加えて混和した後,室温にて1時間静置して白血球層を採取した.この白血球層をHEPES bufferにて3回洗浄後,Ca++,Mg++加HEPES bufferに再浮遊させ,白血球数を1×10^7/mlに調整した.この白血球浮遊液に1/10容のCa++ ionophoreを添加して,37℃で45分間incubationした後,4℃,1500rpmで15分間遠心して得られた上清中のヒスタミン量をRIA固相法で測定した.なお刺激剤の代わりにbufferを加えたものを自然遊離量とした.また総ヒスタミン量は,0.8N-HCO4を加えて白血球を破壊して遠心後,その上清中のヒスタミン量を測定した.ヒスタミン遊離率は次式により算出した.

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 Ca++ ionophoreの適正濃度を設定するために,予備実験として,痒みの強い透析患者と健常者において異なる濃度,すなわち0.lμg/ml,5ug/ml,lOμg/mlを用いてその遊離率を測定した.痒みの強い透析患者のヒスタミン遊離率は,健常者と比較して,高い濃度ほど差が大きいことから,10ug/mlのCa++ ionophoreを用いた.

結果3


 対象患者4例全例において16週の内服前後でヒスタミン遊離率が著明に減少した(10.0%→4.8%,19.2%→1.9%,30.6%→3.6%,34.8%→7.9%).

結論


 以上の結果より,筆者はGLAの内服によってほとんどの患者において透析患者の津みが軽減することを確認した.その作用機序は,GLA+DGLA/アラキドン酸の比が血漿中,白血球膜中において著明に増加し,白血球を用いたヒスタミン遊離率が著減したことから,細胞膜脂肪酸組成の変化を介して起こっているのではないかと推察した.すなわち,細胞膜脂肪酸組成の変化が細胞内c-AMP濃度を上昇させ,その結果,ヒスタミンの放出が抑制されるのではないか(図7)という考えである.さらに,白血球膜と同様に表皮角化細胞や肥満細胞の膜にGLAが取り込まれている可能性も十分示唆されるため,今後さらなる検討を重ねて行きたい.
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文献


[1]MeadJF,WillisAL:The essential fatty acids:Their derivation and role:in Handbook of the Eicosanoids:Prostaglandins and related lipids(Willis AL ed.).BocaRaton, CRC Press, vol.1A, pp.85-98,1987.
[2]森功, 岩井哲郎, 森睦子, 山田恵子, 川岸史和: 透析患者の掻捧症に対するγ-リノレン酸の有効性.腎と透析,36:623-628,1994.
[3]NakajimaT,IzuS:Microbial production and purification of ω 6 polyunsaturated fattyacids;in Sinclair A, Gibson R(eds.):Essential Fatty Acids and Eicosanoids.Champaign,American Oil Chemists’ Society, pp.57-64,1993.
[4]Lawson LD, Hughes BG: Triacylglycerol structure of plant and fungal oils containing γ-linolenic acid. Lipids,23:313-317,1998.
[5]Folch J, Lees M, Sloane Stanley GH: A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J Biol Chem, 226: 497-509,1957.
[6]安枝 浩: ヒスタミン遊離試験. 臨床免疫,20: 237-247, 1988.

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